がん治療への各種取組み がんに関する診療実績(院内がん登録)

食道がん

食道がんの診断、治療、経過観察への流れがわかります。また、久留米大学病院の食道がん診療の実績と特徴を記載しています。

はじめに

食道がんの患者数は年々増加しています。2010年にはわが国で2万1千人余りが罹患しています。全ての癌の中で11番目に多く,男女比は6:1と男性に多い癌です。

食道がんには色々な種類がありますが,扁平上皮がんと腺がんの2つが代表的な組織型です。わが国を含むアジアでは扁平上皮がんが圧倒的に多く,欧米では腺がんが半数以上を占めます。扁平上皮がんは胸部中部食道に多く,腺がんは胸部下部食道に多く発生するという発生部位の違いもあります。また発生のリスク因子として,食道扁平上皮がんは飲酒や喫煙との関連が高く,腺がんでは逆流性食道炎が指摘されています。

いずれのがんでもそうですが,食道がんでは早期発見が特に重要です。食道がんは,胃がんや大腸がんなど他の消化管のがんと比べて,浅いがんでもリンパ節や他の臓器に転移しやすい特徴があるからです。粘膜までにとどまる浅いがんの大半では内視鏡治療で完治します。しかし,粘膜より深く進行したがん(粘膜下層より深く)ではリンパ節転移が多く認められるため,手術や化学放射線療法(抗がん剤と放射線を組み合わせた治療)が必要になりますし,再発率も高くなります。

進行がんや再発がんに対しては,いくつかの治療を組み合わせた集学的治療を行うことが一般的です。そのためには様々な分野の専門医の存在が不可欠です。大学病院はその点で一般病院より恵まれた環境にあるといえるでしょう。久留米大学病院では多くの経験,知識,データに基づいて最高の食道がん治療を目指しています。以下に食道がんの症状,診断や治療の概略を説明します。

症状

食道がんでは様々な症状が出現します。粘膜がんなどの浅いがんでは,ほとんどの症例で症状はありません。時に胸にしみるような感じがすることがありますが,非常にまれです。健康診断目的の内視鏡検査でたまたま発見される食道がんの場合もまず無症状です。

ある程度の大きさのがんになると,食事の際につかえる感じがしてきます。まず固いものの通りが悪くなり,次第に柔らかいものでも通りが悪くなってきます。さらにがんが大きくなり食道を塞ぐようになると,水分の通りも悪くなります。こうなると食事の際にしばしばもどすようになってきます。つかえが強くなるとむせて,咳がでることもよくあります。

食べ物がつかえるようになってくると,次第に体重が減ってきます。1か月で3~5kg以上も減ることがしばしばあります。

その他には,胸痛や背部痛がでることもあります。癌が食道の壁を破り周囲の臓器へ広がっている場合にみられる症状です。

さらに声の調子が悪くなり,”かすれ”てくることがあります。嗄声(させい)といいます。これは声帯を動かす神経(反回神経といいます)ががんのリンパ節転移におかされた場合に出る症状です。

その他にがんが転移している場合には,転移した部位により様々な症状が出現することがあります。食べ物がつまりやすい等の食道自体の症状はないにもかかわらず,転移した部位の症状によって食道がんが発見されることもしばしばあります。思わぬ症状が実は食道癌がんによるものだったというのはそれほど珍しいことではありません。

診断

食道がんの診断は内視鏡検査(“胃カメラ”のことです)で行います。その際に腫瘍組織の一部をとり(生検と言います),がん細胞が見つかれば食道がんの確定診断(最終的な診断のことです)となります。がんの存在診断の後には,進行度診断(がんがどれほどの進行度であるか診断する)が必要です。がんの進行状況に合わせた治療を行うためです。上部消化管造影検査(バリウムを用いた造影検査のことです),CT検査,PET検査,超音波検査などを用います。これらの検査で食道がんの進行度を調べるとともに,他の臓器にがんを含めた腫瘍がないかも知ることが可能です。実際に,検査してみると食道がん以外に咽頭など“のど”のがんや胃がんを併発しているケースは多く見られます。

さらに,治療における危険因子となる病気がないかも調べます。というのは食道がんにかかる人は肝臓や呼吸器の疾患,糖尿病や心臓病など他の疾患を併発しているケースが非常に高率だからです(当院ではアルコール性肝障害を合併している割合が50%以上と非常に高率です)。最適な治療を選択するためにも全身状態の把握が重要です(血液検査,心電図,呼吸機能検査など)。耳鼻科,口腔外科,循環器科や呼吸器科など多くの他科医師の協力により治療前の状態把握に努めています。

治療

一般的な治療方法として,浅い早期のがんには内視鏡治療を,ある程度の深さがありリンパ節転移が予想されるがんには手術や化学放射線療法(放射線+抗癌剤の治療)が行われます。また肝臓や肺など他の臓器に転移があり根治治療(癌を治す治療)が困難な場合には,症状を緩和するための治療が行われます。当院では全ての食道がんに対応可能です。以下に代表的な治療法である内視鏡治療,外科手術,化学放射線療法について説明します。

1.内視鏡的治療

食道は“のど”と胃をつなぐ,管状の臓器です。厚さは3~4mm程度しかありません。そしてその管はいくつかの層から成り立っています。内側から①粘膜(ここから癌は発生します),②粘膜下層,③筋層,そして最も外側には④外膜と言われる膜があります。 食道がんでは,がんの深さが“粘膜内にとどまる”場合を,早期がんと言います(早期がんの定義は癌の種類によって異なります)。そして,早期がん(=粘膜がん)ではリンパ節転移はめったに起こりません(*)。このため,粘膜がんの多くで内視鏡治療が可能です。そしてその大半は完治します。

内視鏡治療には①内視鏡的切除術(内視鏡的粘膜切除術[EMR]と内視鏡的粘膜下層剥離術[ESD]の2つの方法があります)や②レーザー治療(アルゴンプラズマ凝固療法[APC],光線力学療法[PDT])がありますが,中心的役割を担っているのは①の内視鏡的切除術です。EMR,ESDのいずれも,食道がんを内視鏡で観察しながら,さまざまに工夫された器具を用いてがんを切除する方法です。

手術と比べて体への負担が少ない,非常に優れた方法です。わが国で開発され,1990年代から盛んに行われ発展してきました。胃がんや大腸がんでも行われています。現在では世界中で行われています。

*厳密には粘膜をさらに3つの層に分けて検討されており,粘膜の最も深い部位まで達すると数%~10%の転移がみられます。内視鏡治療の適応や方法など詳細は担当医へご質問ください。



2.外科治療

食道がん手術はがんが粘膜下層,筋層や外膜まで達した場合の標準的治療です。がんが食道の壁を越え周囲の臓器にまで達する場合(浸潤といいます)には,一部の例を除いて手術はできません。このような症例には後で説明する化学放射線療法などを行います。

最も標準的な手術は右開胸開腹食道亜全摘術+胃管再建+リンパ節郭清術(リンパ節も一緒に取り除く)という手術です。胸,腹,さらに頸の3か所から手術を行います。外科手術のなかで最も難しい手術の一つです。食道を取り除くだけではなく,がんが転移(癌細胞が血管やリンパ管をとおってはなれた所に移動し腫瘍を作ること)しやすい部位のリンパ節も取り除きます。実際にはがんができた部位や進行度によって他の手術方法が行われることがありますが,以下にこの代表的な手術の概略を説明します。

まず,右の胸を開けて食道と周囲のリンパ節を気管・気管支,大動脈,心臓などから剥離(はがすこと)します。食道とリンパ節が胸の中(縦隔といいます)からはがれたところで,一旦食道を腫瘍の上または下の位置で切ります。

次に腹部の手術に移ります。胃の周りのリンパ節を取りながら,胃を食道と同様に剥離します。胃がんの手術では胃を取り除きますが,食道がん手術では胃は取り除きません。胃は食道を切除した後の食道のかわりに用います(再建といいます)。この際に胃を細長く細工します(この細く長くした胃のことを胃管といいます)。これを後に頸まで持ち上げて,残った食道(食道の入り口,つまり口に近い部分の食道は少し残して食道は摘出されています)と胃をつなぎ合わせることになります(吻合という)。

最後に頸の手術です。必要に応じて頸のリンパ節も郭清します。左の頸から胸の中で切り離した食道を引き出し,癌から離れた最適な部位で食道を切り離し,先に作った胃の管とつなぎます。

胃の管を頸まで持ち上げる経路にはいくつかあります。①元々の食道があったところを通す方法,②胸骨という胸の骨と心臓の間を通す方法,そして③胸骨の前で皮下を通す方法です。がんやその他の持病の状況(例えば心臓手術の既往など)に応じて通し方が異なります。どの通し方にも一長一短があります。自分にはどの方法が用いられるかは担当医にご質問ください。

食道がん手術でも内視鏡手術が普及しつつあります。胸部操作では胸腔鏡,腹部操作では腹腔鏡という内視鏡を用いて小さい創で手術が行われています。内視鏡と手術機器を胸・腹部に入れる1~2cm程度の穴だけをそれぞれ数か所開けて手術する方法や数cmの創と器械を入れる小さな穴から手術する方法など色々な方法があります。当院でも2000年代前半より取り組んできました(小さな創も併用する方法です)。従来の開胸開腹手術と手術成績や合併症発生率に違いがあるのか全国レベルでの検討が進んでいます。

また,手術前や手術後の化学療法(あるいは化学放射線療法)もよく行われています。手術前の化学療法であれば,食道がん自体を少しでも小さくしリンパ節転移を減らしてから,手術によってより完全にがんを取り除こうという意図のもとに行われます。手術は万能の治療方法ではありません。目に見えないレベルで散らばったがん細胞に対しては化学療法の手助けが必要です。術後の化学療法も同様にリンパ節転移が多く,がん細胞がどこかに残っている可能性が高い(つまり再発の可能性が高い)症例に行われます。

手術はすべての食道がんに対して可能というわけではありません。手術の適応(どのような癌に手術を行うか)や手術方法,手術の合併症や術後成績など詳細については担当医にご質問ください。



3.化学放射線療法

放射線療法と化学療法(抗がん剤治療)という2種類の治療方法を組み合わせた治療です。放射線治療のみよりも化学放射線療法として放射線と抗癌剤を一緒に使った方が効果が高いことが明らかになっています。このため,根治を目指す場合には放射線の単独治療ではなく,化学放射線療法を行います。手術が可能であるが手術を希望しない,あるいは何らかの理由で(肺機能が低下している等)手術ができない場合,またがんが食道の壁を越え周囲の臓器に達する場合(浸潤といいます)にも化学放射線療法は行われます。

食道の腫瘍自体とリンパ節転移の領域を含めて放射線治療を行い,抗癌剤としてはシスプラチンと5-FUという2種類を用いた併用療法(一緒に使う治療方法)が標準的で全国で最も多く使われています。当院でもこの組み合わせで主に治療を行っています。放射線治療は25回~30回行われます(1週間に5日間の治療を5~6週間行う)。

手術が可能な進行度の症例に対して,化学放射線療法は手術と同等の生存率が得られるという意見もありますが(特に粘膜下層癌などの浅いがん),一般的には手術可能症例では手術の方が良好な治療結果をもたらすと考えられています。しかし,近年化学放射線療法で完治すれば食道を残すことができることから(食道温存といいます),手術が可能な症例でも化学放射線療法を選択する場合が増加しています。

化学放射線療法が良く効いて一旦は癌がなくなったように見えたのに,しばらく経ってから癌が再び大きくなることがあります。このような場合,症例によっては手術でがんを取り除くことが可能です(サルベージ手術といいます)。 化学放射線療法の詳しい方法,適応,合併症や奏効率(どれぐらい効くのか)など詳細は担当医にご質問ください。

治療成績

食道がんに対する治療成績は進行度によって異なりますし,同じ進行度(同じ進行度でもリンパ節転移の状況により異なります)でも治療方法によっても異なります。一般的にがんの進行度があがるほど予後は悪くなります。また,重篤な持病の有無や胃がん・咽頭がん・肺がんなど他のがんの発生の有無によっても予後は少なからず異なります。

がんの治療成績は,その予後として5年生存率(患者全体のうち5年後に生存していると予想される割合)として示されます。「5年生存率は80%です」というように使われます。 先ほど食道の壁について説明しました。最も内側が粘膜です。そしてその外に粘膜下層があります。粘膜がん(一部粘膜下層がん)は現在ほとんどが内視鏡的治療で治療されています。5年生存率は90%ほどです。

粘膜下層まで達した食道がんはまず手術で治療されます。約30~40%の症例でリンパ節転移が認められます。5年生存率は約80%です。筋層まで達していた場合は若干下がって70%ほどの生存率になります。筋層からさらに深くなって外膜(食道の一番外側)まで達すると5年生存率は40~50%ほどになります。

粘膜下層から外膜までの食道がんで化学放射線療法を行った場合の5年生存率は手術より10%程度低下すると考えられています(しかし,手術と化学放射線療法のどちらが実際に結果が良いのか,もしくは同等なのかという結論はでていません。粘膜下層がんについては,JCOG0502試験という全国規模の臨床試験の結果が数年後に判明する予定です)。

がんが食道の壁をつき破り,大動脈や気管など食道周囲の臓器まで達した食道がんや肺・肝臓・骨など他の臓器に転移した食道がんの予後は極めて不良です。しかしながら,相当進んだ食道がんでも治療が良く効いて完治することもあります。

おわりに

食道がんは粘膜癌の段階で発見されれば内視鏡治療(すべてではありませんが)で治りますが,それ以上進行した状態では大きな手術や化学放射線療法が必要となり大きな負担となる,かなりやっかいながんです。この点からも早期発見が非常に重要です。

そして食道がんが見つかった場合は,なるべく早く専門医を受診してください。適切な診断を受け,どのような治療が可能なのか,そして自分にはどの治療が適切か,担当医から十分に説明を聞き,治療法を選択することが大切です。

院内がん登録情報

2013年に久留米大学病院に初発で受診され、当院で初回の治療を受けた食道がんの患者さんは75例です。

久留米大学病院で治療を受けた患者さんの進行度をUICCのTNM悪性腫瘍の分類に従った集計を示しています。治療は、ステージ0やⅠAには内視鏡的治療が行われ、ステージⅠBでは放射線治療に薬物療法が併用されています。ステージⅡとⅢには手術療法に放射線治療や薬物療法を併用した治療が行われています。

担当部門と専門医

部門 担当医 外来診療
消化器外科(食道外科) 田中寿明 月曜日午前・午後
森 直樹 水曜日午前・午後
的野 吾 金曜日午前・午後
消化器内科 向笠道太 水曜日午前・午後
井上博人 月曜日午前・午後
耳鼻咽喉科 梅野博仁 火曜日・金曜日午前
小野剛治 金曜日午前・午後
千年俊一 水曜日午前
進武一郎 水曜日午前
形成外科 古賀憲幸
放射線科
(治療センター)
淡河恵津世 木曜日午前・午後

患者さんご紹介の際には「紹介予約センター」をご利用ください。
予約専用フリーダイヤルTEL:0800-200-4897、FAX:0800-200-9489
紹介予約センター直通TEL:0942-27-5673、FAX:0942-31-7897

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