がん治療への各種取組み がんに関する診療実績(院内がん登録)

乳がん

乳がんの診断、治療、経過観察への流れがわかります。また、久留米大学病院の乳がん診療の実績と特徴を記載しています。

はじめに

現在、日本人の死因の第1位はがんです。 近年、日本人女性の乳がん罹患率は人口10万人対100人を超え、悪性腫瘍のなかで第1位を示しています。 年齢別罹患率は30歳代から増加を始め45−49歳が最も多く,その次に60−64歳が多くなっています。粗死亡率,年齢調整死亡率ともに1960年代から毎年増加傾向にあり,2012年における女性乳がんの死亡者数は12,500人を超え,年齢調整死亡率は人口10万人対11.5人で女性のがん死亡原因の第3位です(2012年)。

乳がんの危険因子としては初経年齢が早い,閉経年齢が遅い,出産歴がない,出産年齢が遅い,授乳歴がない,ホルモン補充療法歴があるなどが挙げられます。BRCA1,BRCA2遺伝子変異を有する方は高率に乳がん,卵巣がんを発症します(HBOC症候群;遺伝性乳がん卵巣がん症候群)。

乳がんの症状として乳房のしこりや乳頭からの異常分泌,乳頭の陥没,皮膚のひきつれ,陥凹などが代表的な症状であり,放置すると皮膚の潰瘍や発赤,出血を伴うようになります。近年、乳がん検診によって発見される症例も増えてきてはいますが,日本での乳がん検診受診率は20%前後にすぎません。診察では視触診に加え,画像検査としてマンモグラフィ,乳腺エコー,MRIなどが行われます。

治療方針を決めるためには、腫瘍組織もしくは細胞の採取は必須であり,針生検や吸引式組織生検が行われ、術前に生検ができない場合は手術摘出標本が用いられます。病理検査に基づく乳がんの組織サブタイプ分類が重要であり,サブタイプに基づいて内分泌療法(ホルモン療法)、化学療法(抗がん剤)或いは分子標的治療などの薬物療法を決定します。腫瘍検体の遺伝子を解析し,予後予測や化学療法の治療効果予測を行うOncotype DXなどの検査が利用される場合もありますが,保険適用外です。

診断

1.問診,視触診

腫瘤などの自覚症状に気づいた時期,その後の変化,月経周期との関係を聴取します。特に乳房外傷などの既往病歴は,視診や画像の所見と照らし合わせて再聴取することも重要です。乳癌の家族歴,初潮年齢,最終月経,妊娠・出産歴,経口避妊薬やホルモン補充療法についても確認します。腫瘤の形状,えくぼ症状,皮膚の発赤,浮腫や乳頭のびらんの有無,腋窩リンパ節の腫大などについて視診および触診を行います。

2.画像診断

1) マンモグラフィ

専用のX線装置を使用して乳房を均等な大きさに圧迫し,上下左右方向から撮影します。悪性を否定できない所見に対しては,他の画像診断を追加します。

2) 超音波検査

触診を併用することも重要で,超音波ガイド下の穿刺吸引細胞診や針生検にも用います。当院では基本の超音波所見に付加する情報としてドプラ法による血流情報や,elastographyによる病変の硬さをみる検査も行っています。

3) 乳房MRI

乳癌の検出感度の高い画像診断です。乳房専用のコイルを用いて造影剤使用下で撮影します。腫瘤性病変の拡がりを三次元的に描出することができます。対側乳房を含めた病変部以外の乳腺も同時に観察できます。

3.病理診断

1) 細胞診

乳頭分泌液やのう胞や腫瘍など内容穿刺液も細胞診に利用されます。皮膚潰瘍やびらんが認められる例ではスタンプ細胞診・擦過細胞診も有用です。

2) 生検

針生検と外科的切除生検とがあります。細胞診に比較し、より正確に良悪性の診断が可能です。針生検は,原則として入院する必要がなく、局所麻酔を行った後、マンモグラフィや超音波(エコー)画像ガイド下で行います。針生検結果と画像診断に不一致がある場合,異型組織,乳頭腫,放射性瘢痕が疑われる場合には,切除生検を行います。乳癌と診断された場合,ホルモン受容体やHER2などの検査も行います。

4.乳がんの腫瘍マーカー

がんの種類によって多くのマーカーがあり、乳がんではCEAやCA15-3 が一般的です。ただし腫瘍マーカーの異常だけでは、乳がんの有無や進行度合いの判断はできません。乳がんが存在しても腫瘍マーカーが上昇しないこともあります。しかし腫瘍マーカーは定期的に測定して経過を追うことにより、がんに対する治療効果の判定やがんの再発診断の一つの指標となります。

外科治療

手術療法,薬物療法および放射線療法が乳がん治療の中心です。放射線療法は術後には再発予防として,転移再発乳がんに対して症状緩和目的に行われます。

1. 手術療法

乳がんの手術方法は、「乳房」「胸筋」「リンパ節」それぞれを「どの程度切除するか?」「温存する(残す)のか?」で異なります。手術方法や切除する範囲は、乳房内でのがんの広がりによって決められます。通常、乳がんの切除と同時に、わきの下のリンパ節を含む脂肪組織も切除します。これを「腋窩(えきか)リンパ節郭清(かくせい)」と呼びます。乳房に対する手術では乳房温存術と乳房切除術があり,腫瘍の大きさや場所,乳管内の広がり、さらには患者さんの希望と整容性などを考慮して術式を決定します。 視診や画像診断棟で臨床的に明らかなリンパ節転移を認める場合は腋窩リンパ節郭清を行います。それ以外の場合にはセンチネル(見張り)リンパ節生検を行います。センチネルリンパ節生検で転移を認めた場合は,これまで腋窩郭清が行われてきました。センチネルリンパ節が微小転移あるいは転移2個以下などの条件下において腋窩郭清を省略しても再発率が変わらないことがいくつかの臨床試験で示されました。近年、整容性を重視した術後乳房再建手術(オンコプラスティックサージャリー)の重要性が増しています。また、術後の病理検査で非浸潤がんと診断された場合,ほとんどの場合は治癒可能です。ほかの臓器(骨、肺、肝臓など)にすでに転移を認めた乳がんに対して、出血などの症状コントロール目的に原発巣切除を行うことがあります。

1) 乳房腫瘍(しこり)に対する手術

① 腫瘍摘出(核出)術:乳房のしこりだけを切除する手術で、吸引細胞診や針生検で術前にがんの診断がつかない際に行われます。がんの根治手術ではないため、病理学的に乳がんと診断された場合、後日追加切除術を行うことが多いです。

② 乳房温存術(乳房部分切除術):しこりを含めた乳房の一部分を切除する方法で、「乳房温存手術」と呼ばれます。病変の部位や広がりによって、乳頭を中心にした扇形に切除、あるいはガンの周囲に2cm程度の安全域をとって円形に切除します。しこりが大きい場合、乳がんが乳腺内で広がっているとき、乳腺内にしこりが複数ある場合には、原則として温存手術の適応にはなりません。通常温存手術後には放射線照射を行い、残された乳房の中での再発を予防します。

③ 胸筋温存乳房切除術: 乳房とわきの下のリンパ節を切除します。がんの進展度によっては、胸の筋肉の一部分を切り離すこともあります。この術式が最も一般的な乳がんの手術方法です。

④ 単純乳房切除術: がんのできた側の乳房を全部切除し、わきの下のリンパ節の切除は行わない手術方法です。

⑤ 胸筋合併乳房切除術(ハルステッド手術):乳房とわきの下のリンパ節だけでなく、乳腺の下にある大胸筋や小胸筋を切除します。かつてはこの手術方法が標準的手術方法として実施されてきましたが、現在ではがんが胸の筋肉に達している場合だけ行われます。

2) わき(腋窩)のリンパ節に対する手術

① 腋窩リンパ節郭清術:腋窩リンパ節郭清は、乳がんの領域でのリンパ節再発を予防するだけでなく、再発の可能性を予測し、術後に薬物療法が必要かどうかを検討する意味で非常に重要です。しかし、腋窩リンパ節郭清を行うと、手術をした側の腕にリンパ浮腫(むくみ)が出現したり(頻度は10~20%程度)、肩の痛みや運動障害が起きることがあります。

② センチネルリンパ節生検:センチネルリンパ節とは日本語で「見張り番リンパ節」という意味で、乳がんから転移するがん細胞が最初に到達する乳腺の領域リンパ節のことを指します。 がんの近傍に放射線同位元素(RI法)や色素(色素法)を注射することにより見つけることができます。

多くの場合は、わきの下のリンパ節がセンチネルリンパ節になりますが、センチネルリンパ節に転移がなければ、多くの場合(90%以上)、わきの下のリンパ節に転移がないということがわかっています。センチネルリンパ節生検でがんの転移を認めない場合、腋窩リンパ節郭清を行わなくてもよいことが実証されています。

当院では新しい蛍光色素法によるセンチネルリンパ節検出(HEMS法)を行っており、従来よりも正確かつ迅速に手術を行うことで、術後の傷(手術創)も小さくできます。

3) 乳房再建術

 がんを切除する手術で失われた乳房を自分の筋肉、または人工物を使用し形成する手術で、乳頭を形成することも可能です。 乳房再建手術には一期再建と二期再建があり,患者さんの希望や状態に応じて術式が選択されます。再建にはシリコンなどの人工物が用いられる場合と,広背筋皮弁や腹直筋皮弁などの自家組織を用いる場合があります。再建術を希望する方は当院の形成外科担当医とよく相談してください。

化学療法

浸潤のある乳がん、或いはリンパ節転移を認めた乳がんは早期から全身に微小転移をきたし,手術のみでは根治できない症例が多いと考えられています。そのため、再発予防目的で術後化学療法を行うことがあります。再発リスクと治療効果予測を行ったうえで、その適応を決定します。再発リスク評価は病期,組織グレード,ホルモン受容体,HER2などに基づいて行います。治療効果予測では腫瘍のサブタイプを重視し,ホルモン感受性が高く増殖能の低い乳癌の化学療法感受性は低い傾向にあると考えられています。近年、多遺伝子アッセイ(Oncotype DXなど)を用いた適応評価も行うことができるようになりました。がん細胞増殖能の高い,ホルモン受容体陰性乳がんの多くは化学療法の適応となります。一般的に使用する抗がん剤のレジメンとしてはアントラサイクリン含有レジメンとタキサン含有レジメンの逐次もしくは同時投与が標準であり、3週ごとに4―8コース行います。近年は,アントラサイクリンを含まないレジメンで治療する場合もあります。また、腫瘍の大きさやリンパ節転移の有無などによっては術前化学療法も考慮されます。化学療法は術前,術後のどちらに行っても予後が変わらないとされており,乳房温存手術を希望される患者さんや抗がん剤の効果を確認したい患者さんの場合には,術前化学療法も考慮されます。
再発や転移した乳がんに対する抗がん薬剤は多数保険承認されており,使用可能となっておりますが、腫瘍の特性や患者さんの状態,価値観をふまえて,エビデンスに基づいて治療法を選択することが必要です。アントラサイクリン系,タキサン系薬剤を含む前治療歴を有する進行・再発乳がん患者さんに対するエリブリン投与は主治医選択の化学療法と比較して全生存期間の延長を示しており,3次以降の標準治療の1つと考えられます(EMBRACE試験)。また,1次治療としてTS-1とタキサン系薬剤を比較したSELECT-BC試験の結果により,TS-1は全生存期間において劣らないことが示され,治療選択肢の1つとなっています。その他,日本ではカペシタビン 、ゲムシタビン 、ビノレルビン、イリノテカン、カルボプラチンなどが保険適用で認められています。

ホルモン療法

ホルモン(エストロゲン)受容体陽性乳がんに対しては,ホルモン療法が行われます。 閉経前の患者さんに対してはタモキシフェン が使用され,LH-RHアナログを併用する場合もあります。閉経後の患者さんに対しては通常アロマターゼ阻害薬が使用されます。ホルモン療法ではホットフラッシュや関節痛といった更年期障害類似の副作用が特徴的です。
術後療法としてのホルモン療法は原則5年間とされていたましたが,最近、タモキシフェン については10年間投与による再発率の低下を示す報告(ATLAS試験)があり,現時点でも術後ホルモン療法の投与期間を比較する試験は複数進行中であり,適正な投与期間についての議論がなされています。術前ホルモン療法については乳房温存率の向上を目的として臨床試験で行われており、現在では確立された治療法ではありません。
閉経後ホルモン受容体陽性転移性乳がんに対しては,アゴニスト活性をもたないエストロゲン受容体拮抗薬であるフルベストラントの有効性が示されており,閉経後乳がんに対して保険承認されています。 また,ホルモン療法抵抗性の閉経後転移性乳がんに対する2次内分泌療法として,エキセメスタン とmTOR阻害薬であるエベロリムス の併用療法(BOLERO-2試験)の有効性が示されており,治療選択肢の1つとなっています。

分子標的治療

かつてHER2陽性は乳がんの予後不良因子として知られていましたが,抗HER2薬であるトラスツズマブの登場によってその予後は改善してきています。トラスツズマブの術前術後療法での至適投与期間は,1年と考えられます(HERA試験,PHARE試験)。トラスツズマブはHER2に対する分子標的薬であり,HER2陽性腫瘍細胞における増殖経路の阻害,および抗体依存性細胞障害作用により抗腫瘍効果を発揮します。
再発転移性HER2陽性乳がんでは,HERファミリーの2重重合体形成を阻害するペルツズマブの有効性(CLEOPATRA試験)や,トラスツズマブにチューブリン阻害薬のDM1を結合したT-DM1の有効性が示されています(EMILIA試験)。いずれもHER2陽性の手術不能または再発乳がんに対して保険適用を有しており,それぞれ,1次治療,2次治療において標準的に使用されています。抗HER2療法と化学療法の併用が標準的治療で、病変増悪時にも抗HER2療法は通常,継続して行います。また,内服薬としてチロシンキナーゼ阻害薬であるラパチニブも承認されており,トラスツズマブ耐性となった転移性乳がんに対して使用されており、カペシタビンと併用します。
さらに,再発転移性乳がんにおいて抗VEGF抗体であるベバシズマブ がパクリタキセルとの併用で無増悪生存期間を延長することが示されており(E2100試験)、保険適用となっています。 
そのほか、乳がんの骨転移に対しては抗RANKL抗体,ビスホン酸治療を行います。乳がんの脳転移、或いは痛みなどの症状を有する骨転移には放射線療法の適応を考慮します。当院では放射線治療専門医による照射療法を行います。
乳がん領域において,さまざまな新しい診療技術や新規薬剤の開発により年々複雑化しています。乳がん患者さんに対し、個人個人の最適な診療を行うためには,乳がん最新の診断や治療についての十分な専門知識が不可欠であり、乳癌学会認定施設での受診をお勧めします。

院内がん登録情報と治療成績

2013年に久留米大学病院に初発で受診され、当院で初回の治療を受けた乳がんの患者さんは213例です。

久留米大学病院で治療を受けた患者さんの進行度をUICCのTNM悪性腫瘍の分類に従った集計を示しています。ステージ0とⅠで6割を占めます。治療は、手術治療に放射線治療や薬物療法を併用しています。

担当部署と専門医

部門 担当医 外来診療
乳腺外科 唐 宇飛 月曜・金曜日午前
岩熊伸高 月曜・水曜日午前
岡部実奈
朔 周子 月曜・水曜・金曜日午前
赤司桃子
放射線科
(治療センター)
淡河恵津世 木曜日午前・午後
病理部 秋葉 純

患者さんご紹介の際には「紹介予約センター」をご利用ください。
予約専用フリーダイヤルTEL:0800-200-4897、FAX:0800-200-9489
紹介予約センター直通TEL:0942-27-5673、FAX:0942-31-7897

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